
JPYCがここにきて急に目立ってきた。2026年2月にはシリーズBの1stクローズで17.8億円の調達を発表し、3月にはソニー銀行との連携検討や、LINE NEXTのweb3ウォレット「Unifi」での採用も公表された。こう聞くと「日本発の新しい暗号資産が伸びてきた」と思いがちだが、JPYCの本質はそこではない。JPYCは、値上がりを狙うコインではなく、円をネット上で早く動かすための仕組みだ。
しかも、広がり方も少し独特だ。2026年2月時点で、発行・償還サービス「JPYC EX」の直接口座開設数は1万3000件に達し(プレスリリース)、JPYCを実際に持つウォレットアドレスは8万を突破した。発行元(JPYC株式会社)のサービスの中だけで完結する残高ではなく、外のウォレットやサービスへ持ち出して使う人が増え始めている。JPYCは「もうひとつのPay」を増やすというより、円そのものの配線を変えようとしている。
JPYCって、何なのか
JPYCは、JPYC株式会社が発行する日本円連動のステーブルコインだ。いちばん大事なのは、暗号資産ではなく、法律上は「電子決済手段」として出てきたことだ。1JPYCが1円と連動するように設計されていて、JPYC EXを通じて日本円で発行し、日本円に戻すこともできる。
使い方のイメージは、少しだけ新しい。ユーザーはJPYC EXで申し込みをして、日本円を銀行振込で入金すると、登録したウォレットに同額のJPYCが届く。逆にJPYCを送り返せば、日本円で払い戻しを受けられる。対応しているネットワークはAvalanche、Ethereum、Polygonの3つだ(これは後述する)。
ここが大事
JPYCは「次に値上がりするコイン」を探す話ではない。円を、もっと早く、もっと自由に送ったり受け取ったりするための道具として見るほうが実態に近い。
店側のメリットは「手数料0」だけではない

JPYCの話で目を引くのは、「店側手数料0」という言葉だ。実際、HashPortが始めた企業向けの「HashPort Wallet for Biz」は、決済手数料、月額利用料、登録料ゼロを打ち出している。さらに、利用者がHashPort Walletを使う場合は、ガス代もHashPort側が負担する仕組みを案内している。
さらに店にとって大きいのは、売上が早く動くことだ。JPYCで支払いを受けると、まず店のウォレットにはJPYCがかなり早く届く。そのJPYCを銀行口座の日本円に戻すときはJPYC EXを使うが、公式FAQでは手続きは原則即時としている(マネーロンダリング対策などの確認で翌営業日までかかる場合もある)。カード決済のように「売れたのに入金は翌月」という感覚とはかなり違う。
要するに、店にとっての魅力は「0%」という見出し以上に、売上が寝にくいことにある。資金繰りが大事な小規模店や個人事業者ほど、この違いは効いてくる。
使う人のメリットは「値上がり」ではなく「使いやすい円」にある
利用者側の利点も、投機ではなく決済の利便性となる。まず、日本円と連動しているので、ビットコインのような大きな値動きを前提にしなくていい。税務的にも使いやすい。次に、ブロックチェーン上で送れるので、対応するサービス同士なら、アプリの壁をまたいで持ち運べる。ひとつの会社のアプリに残高が閉じ込められにくいのは、従来のポイントや電子マネーと違うところだ。
さらに、web3サービスとつなげやすい点も強みだ。JPYCは支払いだけでなく、ウォレットを接続して使うサービスにも入りやすい。ふつうのスマホ決済の延長というより、「円でそのままweb3に入っていける」ことに価値がある。
ただし、いちばん大きな壁は「専門用語が多いこと」
一方で、初めて触る人にとって最大のハードルは価格変動云々ではないと考える。まず言葉が難しいことだ。ウォレットアドレス、ネットワーク、トークン、DAppsといった言葉が最初から並ぶと、慣れていない人はそれだけで身構えてしまう。
- ウォレットアドレス……お金の受け取り先。銀行でいえば口座番号に近い。
- ネットワーク……どのブロックチェーンを使うか。道路の種類のようなもの。Ethereum、Polygon、Avalancheなどがある。
- トークン……ブロックチェーン上で扱うデジタルの残高。JPYCもこの形で動く。
- DApps……ウォレットをつないで使うwebサービス。中央管理者を置かずに動くアプリのことを指す(HashPort Walletの説明)。
問題は、これがただの用語ではなく、実際の操作ミスにつながることだ。JPYCの公式FAQでは、違うネットワークで送った場合は償還が成立せず、補償や返送の対象にならない場合があると案内している。普通のコード決済なら起きにくい種類の失敗だ。
この壁を少し下げるために、JPYC側が案内しているのがHashPort Walletだ。HashPort WalletならJPYCが最初から表示されるので、「受け取ったのに表示されない」という混乱を減らしやすい。外部サービスとはWalletConnectでつなげられる。とはいえ、ここまで読んで分かる通り、PayPayのように入れてすぐ使える世界とはまだ違う。設定に少し手間がかかり、理解しておくべき言葉も多い。
JPYCはどうやって儲けるのか
ここは多くの人が気になるところだろう。JPYCは、発行のたびに高い手数料を取って成り立つモデルではない。仕組みは、順番に追うと分かりやすい。
- ユーザーがJPYC EXで申し込みをして、日本円を振り込む。
- JPYC株式会社が、同じ額のJPYCを発行する。
- 受け取った日本円は、将来の払い戻しに備える裏付け資産になる。
- その裏付け資産は、預貯金と日本国債で、発行残高の100%超を保全する設計になっている。
- この預貯金や国債から生まれる利息が、発行体の主な収益源になる。
つまり、利用者から細かく決済手数料を取るのではなく、裏で持っている安全資産の利息で稼ぐ考え方だ。利用者から預かった日本円は、ただ寝かせておく現金ではなく、償還可能性を支える準備資産になる。
ポイントは、その準備資産の中に国債が入っていることだ。JPYCそのものは1対1で交換できるよう価値を安定させる一方、裏側の預貯金や国債からは利息が生まれる。JPYC社の代表は外部インタビューで、ステーブルコイン発行体の収益源は裏付け資産の金利だと説明している。要するに、利用者から細かく決済手数料を取る代わりに、流通残高の裏で持つ国債や預金の利回りで稼ぐ構造となる。
これは、QR決済やカード決済の収益モデルとはかなり違う。従来の決済は、加盟店手数料や各種手数料が太い収益源になりやすい。JPYCはそこを「残高が大きくなるほど、裏付け資産の運用益が積み上がる」という方向へずらしている。言い換えれば、JPYCはアプリ商売というよりバランスシート商売に近い。だからこそ、店側の決済コストを下げる話と、国債金利の話が同じ記事の中でつながってくる。
もちろん、これで何でも永遠に無料になるわけではないかもしれない。開発や監査、法令対応にはコストがかかるし、流通額が小さければ利息収入も小さい。それでも面白いのは、決済の稼ぎ方を「1回ごとの手数料」から「残高の裏にある金利」へずらそうとしている点だ。
暗号資産と何が違うのか
見た目はかなり似ている。ウォレットで管理し、ブロックチェーン上で動き、ネットワークを選んで送る。このあたりは暗号資産と同じだ。
でも、約束している中身が違う。暗号資産は市場で価格が上下するが、JPYCは日本円と1対1で連動し、日本円に戻せることを前提にしている。要するに、同じレールを走っていても、片方は値動きを楽しむ資産、もう片方は送金や決済のための円だ。
今から使うには、何をすればいいのか

始め方は、ふつうのコード決済より少し手順が多い。ざっくり言えば次の流れになる。
- まず、自分で管理するウォレットを用意する。初めてならHashPort Walletのような、JPYCが最初から見えるウォレットのほうが入りやすい。
- JPYC EXで口座を作り、本人確認をする。個人はマイナンバーカードと、公的個人認証サービスのパスワードが必要になる。
- ウォレットアドレスを登録する。JPYC EXに登録できるのは、自分で管理しているウォレットだけで、取引所など第三者が管理するウォレットは対象外だ。
- 発行予約をして、日本円を銀行振込で入金する。
- ウォレットにJPYCが届いたら、送金や決済に使う。日本円に戻したいときは、償還手続きをする。
金額面では、発行も償還も1回3,000円以上、1日100万円まで。気軽に試せる水準ではあるが、「アプリを入れた5分後にどこでも使える」という種類のものではまだない。
どんな人に向いていて、どんな人にはまだ早いか
JPYCが向くのは、カード手数料や入金の遅さに悩む店、夜間や休日でも円を動かしたい人、web3サービスの中でそのまま使える円が欲しい開発者やクリエイターだ。特に「円で受け取って、円のままネット上で回したい」という人には相性がいい。
逆に、スマホ決済はできるだけ何も考えずに使いたい人、設定や専門用語を避けたい人、ポイント還元を重視する人にはまだ向きにくい。JPYCは、今のところ「誰でもすぐ置き換えられる決済アプリ」ではなく、理解するほど便利になる新しい決済インフラに近い。
「人」ではないが、将来的にAIが自発的に決済をするときに使われる未来も見越しているようだ。
JPYCは、新しい暗号資産というより、新しい円の動かし方だ。店側には手数料や入金待ちの見直し、利用者側にはアプリの外へ持ち出せる円という利点がある。一方で、設定の手間と専門用語の多さはまだ大きな壁だ。普及のカギは、技術をすごく見せることではなく、どこまで難しさを隠せるかにある。

