筆者は半年ほど前にノリとその場のテンションで群馬県前橋市に移住をしました(正確には都内との2拠点生活になりました)。それまで地域通貨、地域Payと呼ばれるものがない自治体に住んでいたこともあり、前橋市の「めぶくPay」(コード決済)がとても新鮮だったので、色々と調べ、実態・可能性を調査してみました。
なお、前橋市のビジョンを「めぶく。」と命名したのはたぶん日本一有名なコピーライターの糸井重里氏。最近は前橋市で行われている前橋ブックフェスというイベントも主催されています。JINS創業者の田中仁氏も「めぶく。」ビジョンの設立に大きく関わっています。白井屋ホテルなど、突如、局所的に現れる前橋のおしゃれスポットは田中氏のおかげです。
↓白井屋ホテル。中もとにかくおしゃれなので興味がある方はインスタとかで見てみてください。
↓白井屋ホテルの裏側(中?)にはブルーボトルコーヒーもあります(右端に見切れてるのがそう)。めぶくPayも使えます。
めぶくPayの開発は、めぶくグラウンド株式会社という官民共創会社、格安のMVNOで有名な日本通信も、前橋を2つ目の本社に置くほど開発にも大きく関わっています。また、全体の全体業務設計・進捗管理はデロイトトーマツグループが担っています。
概要
めぶくPayの実績
前橋市の記者会見によると、めぶくPayの2024年9月末時点での実績は以下の通り。
- 登録者数・・・18,829人
- 加盟店数・・・1,353店舗
- 累計決済金額(リリースから約9ヶ月)・・・17億7876万6270円
前橋市の人口は令和6年9月末日時点で329,281人です(参考(PDF))。なので、約5.7%の方が登録しています。めぶくPayが利用可能な15歳以上に絞ると306,651人なので、約6.1%の方が登録している計算になります。
比較対象としては適切ではないですが、参考までにコード決済のPayPayは6500万人が登録しており、日本の人口の約2人に1人以上が登録しているそうです(参考)。
めぶくPayのこれまでの歩み
調べられる限りの歩みは以下のようになっています。
- 2023年12月20日・・・リリース
- 2023年12月20日〜12月31日・・・リリース20%のポイント還元キャンペーン
- 2023年12月20日〜2024年3月31日・・・登録で1,000ポイント-1,500ポイントプレゼントキャンペーン
- 2024年3月12日・・・ATMチャージに対応
- 2023年4月8日〜4月29日・・・新生活応援20%のポイント還元キャンペーン
- 2024年10月1日・・・めぶくPay加盟店のマップ表示(別アプリ)
- 2024年10月1日・・・メールアドレスで「めぶくPay」が利用可能に(市外・県外の方も利用可能に)
従来、めぶくPayはマイナンバーを活用したデジタルID「めぶくID」と連携したサービスだったのですが、2024年10月からはイベント(前述の前橋ブックフェスのようなイベント)で県外から来た方も気軽に使えるようにメールアドレスでの登録を解放しました。
基本スペック(還元率とチャージ方法)
利用者を増やす上で還元率は欠かすことが出来ません。
現在、めぶくPayの還元率は3%です。一般的なクレジットカードやコード決済等よりも高い還元率を維持しています。
ただ、めぶくPayは加盟店手数料は0円で赤字垂れ流しだと思うので、この還元率はいつまで維持できるのかはわかりません。
チャージ方法は以下の通りです。
- クレジットカード(Visa、Mastercard、JCB、American Express)
- 銀行口座(メガバンクと地方銀行)
- セブン銀行ATM
支払い方法はお店に設置されたコードを読み取って金額を入力する方式(MPM)です。
めぶくPayが使えるところと現状
めぶくPayのアクセプタンスマークは多くの場所で目にすることが出来ます。
ただ、目立つのは個人店よりも、大手チェーン店です。市内のスーパーやショッピングモールなどでは多くの場所で使えます。
現金のみのドラッグコスモスでもめぶくPayは使える点は、キャッシュレス派としては非常に助かります。
↓こんな頑なにキャッシュレスを拒むコスモスでも・・・
↓めぶくPayは使える。
繰り返しになりますが、加盟店手数料は0円なので、チェーン店ではなく、地域に根付いたお店ほど導入しても良いと思うのですが・・・。
特に飲食系。半年間色々と回って、個人的に一番好きな定食屋、町中華、昔からあるケーキ屋さん、イタリアンなどでもまだ使えません。
筆者は実際に使っている人を目にしたこともありません。XでめぶくPayを検索してみても、最初のキャンペーン期間中を除いて利用者の声はほとんど見当たらないのが現状です。
めぶくPayの狙い
様々なインタビューなどを拝読すると、めぶくPayの狙いの最大の部分は前橋市に決済情報のデータを残すことにあると語られています。
そのデータを「データガバナンス委員会」を通して個人情報を保護した上で、市政やビジネスに還元するという循環が狙い(プライバシーポリシーで確認できる)。
正直曖昧で、まだどんな活用をされているかの具体的な事例が見当たらないのですが、これを実現するためには、(1)まずは使ってくれる人が増えること、(2)加盟店の多さ、(3)そして厳格なセキュリティが必要になると考えられます。
セキュリティに関しては日本通信が中心となって開発している「めぶくID」という、マイナンバーを活用しており安全性が高い独自の個人認証サービスと連携することで実現していますが、残りの2つはまだまだという印象です(下記詳細)。
ちなみに「めぶくID」は、群馬県前橋市だけではなく、北海道 江別市、長崎県大村市でも導入されています(日本通信がデータ基盤を横展開している)。
めぶくPayは群馬の現金主義に可能性を見出だせるのか?
めぶくPayが使えるところが少ないと書きましたが、そもそもとして、群馬県民、滅茶苦茶現金主義です(すいません、主観ですが)。噂には聞いていましたが、前橋市と高崎市を半年間ブラブラしてこの結論なので、ほかの地域はもっと酷いことが想像できます。
何故こんなに遅れているのか?
あくまで個人の見解ですが、群馬県は圧倒的な車社会で、人気店も街なかに固まっているわけではなく、競合する他店との物理的な距離が離れていることがキャッシュレスが普及しない大きな一因だと考えています。都内だと街なかをブラブラしていて、キャッシュレスの有無が店に入るか否かの大きな判断材料になっていますが、群馬県民は行きたい店を決め打って車で行くことが多いのでそれがないです。こちらで出来た友人たち本当に10分も歩かないですからね。どうして・・・?ってくらい。歩かないから財布がパンパンでも気にしていない感もあります。
前に住んでいたところ(千葉県北西部)では年に1度くらいしか現金はおろさなかったのですが、今は月1でATM通いです。辛い。
ですが、逆にいえば、ここにめぶくPayの普及の可能性があるのかなと思っています。今に至るまでキャッシュレスを導入しなかったお店は、2019年の政府のキャッシュレス還元事業も、PayPayなどのあらゆるキャンペーンもはねのけて現金オンリーを貫いてきたわけです。
それらのお店がキャッシュレス手段を導入するとしたら加盟店手数料が0であることはもう前提条件でしょう。めぶくPayの出番です。すでに他のキャッシュレス手段を導入しているところが増やすよりも、そういった場所を開拓していくことで、市民にとって欠かすことが出来ない決済手段になるのでは?と思います。
この記事を書くにあたって、めぶくPay、及び、めぶくIDの開発に携わっている前橋市、元市長の記事、めぶくグラウンド株式会社、デロイトトーマツ、日本通信のインタビュー記事などは概ね拝読しましたが、大体がある種の高尚な目標、例えば、前述の前橋市にデータを残すだとか、共助型未来都市「デジタルグリーンシティ」にふさわしいサービスだとか、そんなことばかり語られていました。
いやいや、まずは市民がキャッシュレスで便利に生活が出来るようにしたい、それを訴えかけることが何よりも重要なのでは?と県外から移住したばかりの筆者は思います(もちろん加盟店開拓は行っているのでしょうが)。
「めぶくPay、使えます」のアクセプタンスマークが芽吹くことを祈りつつ、今日も現金オンリーの滅茶苦茶おいしい定食屋に行ってきます。
皆さんのところの地域Payはどんな感じですかね?